絶対迎えに行くから! うん!まってる。 最近よく見るのは、そんな幼いころの夢。本当の話かどうかなんてもう忘れてしまったけど、たぶん似たような約束はした気がする。たとえそれが十何年前の話だとしても。 「またこの夢」 小さな自分と、だんだん小さくなる車と窓から手を振る男の子。あのことはまだ幼い私なりに、色々と考えていたんだろう。そんな夢を全てを鮮明に思い出すことができる。そしてこれを見るたびにその男の子のことを考えるのだ。彼も元気でやっていれば、学生といえどもう十分大人といえる年齢になっているはず。 「!」 って私を呼びながら笑う女の子みたいな顔は今でも忘れられないくらい。あまりの懐かしさに幻聴まで聞こえたかと思って薄く目を開けると、夢と同じ可愛い顔が隙間から見えた。 「、起きてる?」 確認のため閉じた目をもう一度開く。がそこにはやはりあの男の子と同一人物としか思えない人がいる。信じられずに同じことを二度三度繰り返したが、結果は同じで。自分で自分の目を疑うなんてことが本当にあるのだとこの時初めて確信した。 「つば、さ!?」 思わずベッドから飛び起きる。そしてついでにない頭をフル回転させて考えた、結論。 「お母さん!!へんた・・・」 ゴッ 「ちょっと静かにしててくれる?」 「あ、はい」 スミマセン。 反射的に出た言葉に、何で私がこんな奴に謝らねばならんのだと反論しようとしたがしかし、あまりの頬の痛さに断念。本気で痛いのは、この人が今青春真っ只中の乙女の顔をグーで殴ったからだと思われる。できればできることなら気のせいだと思いたいし目を開ければ夢だったなんて展開をすごく期待していた。 けど神様はそんなに優しくなんてなくて、見上げれば彼と目が合う。やはり何年たっても可愛い外見は変らないなあなんて口に出したら小突かれた。 「相変わらず間抜け面だね」 「そちらこそ相変わらず女の子みたい」 「怒るよ」 「冗談、です」 冗談、冗談。 そう言ったのに、言ったにもかかわらず今度は寝ぐせがひどい髪をさらにめちゃくちゃにされた。いい加減ひどい仕打ちだ。 「つばさちゃん」 「なんだよ、っていうか翼ちゃんって呼ぶな」 「いいじゃない幼馴染なんだから」 「昔の話だろ」 「・・ほんとに翼なんだ」 「だからさっきからそう言ってる」 でもよくよく考えれば、私の記憶の中の翼はもう少し背が高かったような気がする。 そう言おうとしたけど、私も馬鹿じゃないので黙っておいた。まあ記憶なんてものは日が経つに連れて美化されてゆくものだからね。 そう勝手に思っていただけなのに今度はでこピンがとんでくる。しかもかなりの衝撃で目じりに涙が浮かんだ。 「何も言ってないんだけど!」 「顔に書いてるし」 あ、そう。 「ていうかいつまでその格好でいるつもり?」 言われて自分の姿を見てみると、寝巻きだった。そりゃあ寝てたところに彼が勝手に押しかけてきたんだからしょうがない。 「誰のせいだと思ってんの」 「誰?」 「(おまえだよ・・!)」 「何?」 「べつに」 ていうか、 「着替えるんですけど」 「勝手にすれば?」 「出てけ」 まったく生意気な性格に育っちゃってほんと勿体無い。顔だけはほんともう誰もが認めるであろうほど可愛いのに。 「遅い」 「もういいよ」 ドアを開けると、翼ちゃんが相変わらずのろまだねって言ってた。もう勝手に言ってろ。 「ほら早く」 「なに?休日くらいゆっくりさせてよ」 「はあ?どうでもいいけど早く荷物まとめな」 「なんで」 荷物とかまとめろとかわけわからん。そうやって首を傾げたら、翼が馬鹿にしたように「もう忘れたわけ?」とため息をついた。 「何が?」 「迎えに行くって言ったろ」 もう離さない。 そんな声が聞こえた気がした。 |