ドン




一際大きな音を立てて 暗くなった空に大きな花が咲いた


「ベル!見て、花火だ!」
すごい綺麗、ちょっと見て行こ!

コンビニの帰り道、ちょうど町の祭り花火が始まったたらしい 弾けるような音とともに空へと降り注ぐ光が綺麗で、思わず見入ってしまう しかしがそれに夢中になっているにもかかわらず、声をかけているにもかかわらず、彼はそんなことなど気付いていないかのように次の角を曲がろうとしているところだった 気づいた彼女が慌てて追いかけるも、金髪の彼は大して興味無さ気に振り向くのだ



「うぜー、花火くらいいつでも見れるじゃん」
「見れない!だっていつもベルがめんどくさがって部屋から出てくれないもの」
わたしは一週間前の隣町での花火のことを思い出し、それまた一年前の夏のことを思い浮かべる

「そーだっけ、まー今度は行ってやるから、」

今日は帰ろーぜ そう言う彼に一瞬頷きそうになるが、はもう何度目かになる失敗を思い出し首を横に振った。 そう、今日こそはこの我侭王子にがつんと言ってやらなければいけない は騙されそうになる自分を押しのけ、その間にも家へ足を進めようとする彼の前に立った

「ベルの嘘はもう聞き飽きたわ!」
「なんだよ 今日はやけに強気じゃね?」

どうした?というその問いに、「ベルの嘘に騙されないために強気でいることにしたの」と答えれば、ベルはうしし、と特有の奇妙な笑い声で肩をゆすった その声に内心びくりとしながらも、ここまできたからには今更退く事はできないとも手に汗握り締める
一見恋人同士のやり取りにも見えただろう しかし付き合っているわけではない かといって友達とは言い切るのはまた違う 複雑な関係だった  彼の場合、コミュニケーション能力が乏しい という言い方が正しいかわからないが、まずはこの外見 そして自己中心的過ぎる発言及び行動が後押しして、学校では恋人はおろか友達すらいなかった はそのことを何度もどうにかしようと試みたが、現況がこれでは不可能だという結論に達した  まずベルには、友人と恋人の違いすらよく理解できていない そんな彼とどうやって恋愛関係になどなろうか なれるのか? 答えは簡単だった NOだ 
色恋沙汰に出会うことがこれまで少なかった彼女だが、はっきりと気づかされていた

そして、「しょうがねーな」 と舌打ちしつつも足を止めてくれたベルに少し微笑む  彼のつまらなそうな態度など、慣れればなんてことなかった




「夏も終わりね」
「何しんみりしちゃってんの?」
「何って 夏が終わったら学校始まるじゃない」

「行きたくないわけ?」
「いきたくないわけじゃないけど」
ベル学校あんまり来ないし

その言葉とともに彼が花火から彼女へと視線を移すと、彼女はそれとは逆に花火に見入るような視線を送っていた その横顔が花火に明るく照らされる
はそのまま光から目を逸らすことなく口を開いた

「寂しくなる


会える時間が減るんだもの」

続けざまにそう言って、私は最後に 彼の名前を付け足した。
ベルが少し息を止めるたのを感じた  長い前髪の上から、その表情は読み取れない  その後放たれた彼の「どういう意味で言ってんの?」 という問いに少し間をおいて答え、また花火に視線を戻した ああ綺麗だななんて思いながら実は頭の中はぐちゃぐちゃベルのことばかり考えてて、あれいつのまに私の頭の中こんなベルでいっぱいになってんの ふとそう思っていた   その問いに答えはないけど

真っ暗な闇の中、花火の光が彼の月色の髪をさらに魅惑に引き立てていた


「つかお前鈍すぎ」

彼は私の手をとって歩き出した
私が戸惑うと、ベルは「花火」 とだけ言って いつものように不気味な笑い方をするのだ






私は、この曖昧な関係がもう少し続けばいいと 彼の手をぎゅっと握り返した

ウソツキドロボウ


(そして彼はいとも簡単に私の心を盗んでいく)



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