好きだ好きだすきだすきだ。
思うことは簡単なのに、口に出すことは容易ではない。相手の気持ちがわかからないほど怖いものは無いのだ。誰しも恋愛感情を抱いた事がある人ならわかるであろう。そしてそれが出来ずにずるずると幼馴染を続けているわたしも、何度か勢い付けるも勇気が出ずに結局幼馴染という策から足を踏み出すことの出来ないただの臆病者。
幼馴染という長い時間の中でこの感情に気が付いたのは、武に彼女が出来たときだった。最悪だ、もっと早く気が付いていればどうにかなったかもしれない、せめて彼女がいなかったら告白だって出来たかもしれない。今更こんな馬鹿みたいこと考えても遅いってわかっているけどだけど、彼女と仲よさそうに話す武を目の前にするともうどうしようもなく胸の奥を鷲掴みされたような気持ちになる。そして武はそんな私の心境なんて知るはずも無く幼馴染としてわたしのところへやってきては彼女の自慢話なんてするものだから、わたしはいつもそれをもう慣れてしまった作り笑いで誤魔化してよかったねって応援しながら、心の奥では早く別れたらいのにとか私のほうが武のこといっぱい知ってるとか、私のほうが武のこと好きなのにとか真っ黒な事ばかりが巡っていた。こんなこと武に知れたら嫌われちゃうなわたし。
そしてある日ふいに「彼女のどこが好きなの?」って聞いたら、武は「笑った顔がに似てるとこ」って言うものだからどきりとする。そんな事言われたら武の好きな人はわたしみたいに聞こえるから一瞬期待した。だけど直ぐにそんなことはまずありえないんだと頭を振って取り消してやった。
武に彼女が出来る前までは、学校でもどこでも、「山本くんとさんって付き合ってるの?」って誰もが聞いてきて、わたしはそんな人たちを笑顔で誤魔化していた。実際付き合ってもいないのに、いつのまにか聞きなれてしまった「付き合ってるの?」という言葉に充実感を持ってしまっていた。最悪だってわかっていたけど、否定することも怖くて、だけど馬鹿なわたしはそれが彼に対しての恋愛感情だとは微塵も思わなかったのだ。
だけどそんなある日、いつもどうり何も変わらない様子で武が言った一言はわたしの胸にぐさりと突き刺さって、思わず涙があふれるかと思った。痛い、と泣き喚きたかったが「彼女できたんだ」と笑う武にプライドの高く馬鹿なわたしはやっぱり作り物の笑顔で「よかったね」って笑い返すことしか出来ない。
そう、だからといって今更それに気が付いたところでこの状況は変えようの無い事実。もしも、もしもわたしが武と付き合うことがあるのだとすれば、それは武が今の彼女と別れるか、それともわたしが彼女から彼を奪うしかないのだ。
前方は期待できない、かといって後方を行動に移す勇気も自身も、わたしには存在していなかった。わかってはいたけれど、わかり切っていたけれど、その事実は傷付いたわたしの胸をさらにぎゅうぎゅうときつく締め付ける。
最悪だ、最悪だ、さいあくだ。どうして今まで気が付かなかったのだろう。記憶をたどれば、どの思い出にも武は存在して私の隣でいつも笑顔を見せていた。近すぎて気が付かなかったのだ、恋という感情に。それは友情にとても似ていて、けれど違っている。そう、恋愛と友情は違うのだ。それに早く気がつけていれば、武は今もわたしの隣でわたしだけの彼であったかもしれない。ああだけどもう遅い、わたしはこれからも今までどうり彼女の自慢話をしにくる幼馴染を迎え入れ、今までどうり変わることのない作り物の顔で笑うのだろう。
もう既に、わたしと武には友情という繋がりすらなくなってしまったかのように思える。ただあるとすれば、幼馴染という肩書きと、私が武を好きだという事実だけだ。それが無性に悲しく思えて、わたしは今日も独り彼の立ち去った後の部屋でひっそり誰にも見られることなく、話すことなく涙流すのだろう。
それは 眩しすぎる青