日が落ちて薄暗くなるこの時間帯 ちらほらと街灯が町を照らし始める 最近いつも、この時間になると彼女はやってくるんだ いつだったか 10代目の家に寄った帰り彼女を見かけ、その時はもう暗くてどこかで見たことあるような奴としか思ってなかった(そしていつもならただ見覚えのある奴に会ったな、ぐらいで次の日には忘れているはずだ)だけど次の日偶然にも行われた席替えで、偶然にも奴の隣を引き当ててしまったのが運の尽き、先日のことを思い出せばその人が気になって仕方がなかった(つーか同じクラスだったんだな) その人とは勿論夕暮れに走る彼女のことで 迷いに迷った挙句10代目に尋ねたところ、そいつは陸上部のエースだとかで、授業もいたって真面目に聞いているし将来を期待され教師からの信頼も厚いらしい ああ俺には無縁のタイプだな なんて思えばいつの間にかこちらをじっと見ていた10代目が「獄寺君が他人を気にかけるなんて珍しいね」と何だか嬉しそうな顔をした 俺は何故そこで10代目が喜ぶのかなんてわからなかったが、10代目が優しい表情で笑うので黙っておくことにする この笑顔に何度救われたか 10代目は本当に偉大なお方だ! 「10代目!いつもありがとうございます!」俺が深々と頭を下げれば、「ちょ、獄寺君やめてよ」俺何もしてないし、ていうか皆見てるし! そう慌てたように言う10代目に再び頭を下げると、帰りのHRはいつの間にか幕を閉じていた もう直ぐ行われる文化祭のせいで帰りは幾分遅くなる そして部活が休みだった山本が、いつもなら10代目と二人で帰るところに「ツナ、一緒に帰ろうぜ! お、獄寺も一緒か!」などとへらへらいつもの笑顔で言いながら割って入ってきやがった それにあらかさまにいやそうな顔をすれば、「機嫌悪いな?」と人の気も知らず問うてくるので内心お前のせいだと思いながらもここは10代目の顔に免じて許してやることにする うっとおしい山本から10代目を守るためにわざと遠回りして帰ると、それに気が付いた10代目(さすが!)に「あれ、獄寺君って家向こうじゃなかった?(もしかしてこのままうちに来る気じゃ…)」なんて言われ、少し上機嫌になる 「10代目は何も心配する必要はありませんから!」「そ、そう」 一瞬10代目が凄く心配そうな顔をしたような気がしたが、それは気がしただけであって気のせいに決まっている(なんせ俺は10代目の右腕だからな) 今日は天気が良くないためか辺りは少し薄暗かった やっとのことで山本と別れ、そして結局家の前まで送りに来る格好となってしまった10代目とも別れを告げると、今日もまた夕暮れが近い 夕暮れが近い、と思ったのはただ今日も帰りが遅くなったという意味で、他にどうこう意味があるわけではない(当たり前だけどな)今日も10代目は凛々しかったなー!なんて家に着くと、灯りもつけず薄暗い部屋に少ないながらも光を差し込んでいる窓が目に付いた そろそろ夕暮れだな(いや別にどうでもいいけどよ) 「ああ、さん? 何度か話したけど真面目でいい子だよ」 10代目の言葉を思い出し、あいつっていうんだなと考えた だけど下の名前は、何だ 聞いていない 明日また10代目にでも聞いてみるか だけど何度も同じ奴のことを10代目に聞くのもなんだかなと思い、留まる 変な誤解されても困るしな そう思って、今日の10代目の嬉しそうな笑顔のわけがなんとなくわかった(もう遅いか) そうして窓から下を見下ろすともうあいつが通ってもいい時間帯になっていた 今日は幾分遅いのか、それとも天気が悪いからなのか、多少暗く感じる おせぇな、(いや別に待ってるわけじゃないけどよ) そしたらとんとんとんって規則正しい地面を蹴る音が聞こえて、きて勢いよくそちらに目を向けた(来た) そいつはいつもなら部活のジャージで走っているのに、今日に限って違う そういえば今日は山本の奴も部活がないとかで付いてきやがったな、などと思いながらいつもと違う雰囲気にどきりとした が足を踏み出すたび、少し短いんじゃないかと思われる制服のスカートの裾がふわりと浮き上がる 繰り返されるそれをじっと見ていれば、自分も走り出したい衝動に駆られ部屋を飛び出した 勿論行く先はあいつ 家を飛び出すその間もは止まることを知らず距離を広げていく だけどゆっくりとしたペースで走っていたそいつには、案外あっさりと追いつくことができた 「獄寺くん?」 走っていた自分の前に立ち塞がったことに対してか、それともそれが俺だということに対してか、は驚きながらもしっかりと俺の名前を口にしている(名前覚えてたのか)それに、「ちょっと時間いいか?」と自分でもその声色に驚くほど冷静に尋ねれば、はさらに驚いたのか反応が少し遅れて、だけど後に「いいよ」と返した 学校ではさすがに直視することはなかったが こうして見ると可愛い顔してるな、などといらぬことが頭をよぎる それでいて性格も良い、スポーツ万能、勉強もできる(10代目情報)とくれば言うことなしだろう 俺が何も言わないことに疑問を抱いたのか、は覗き込むように首をかしげると、「どうかした?」と声に出した それになんでもないお答えるのは呼び止めた側としておかしいなと思い「いつも走ってんのか?」とわざと知っていることを質問してみれば、そいつは「走るの好きなの」と嬉しそうに答えるのだ その笑顔に、こいつ10代目とおんなじ雰囲気してるななんて考えるが、だけどすぐにこんなその辺の女と10代目を一緒にしてはならない右腕失格だ!と訂正した(すいません10代目!) 「びっくりした、まさか獄寺君に会うなんて 家近くなの?」そうに問われ家に目を向けると、それで彼女も理解したのか、「じゃあいつも通ってるところだ」と口にした 全て知っているなんて言ったらこいつは驚くだろうか だからついなんとなく「いつも窓から見える」と口にしてみれば案の定そいつは口をあけたまま固まった 全く期待を裏切らない奴だとその時思わされる 「あれ、じゃあさっきのは知ってて?」「何が」「いつも走ってんだ?ってやつ」「ああ、」「ああって 獄寺君ってかわった人ね」「そうか?」「うん」 かわってる は二度繰り返した 一体どこがかわってるというのだろう(知ってて尋ねたことか?)それは疑問のままの方を見れば、そいつはけたら楽しそうに立っていた 俺からしたらお前のほうがわかんねぇよ そう思ったが口にするのはやめておく(別に笑顔が可愛いかったからとかじゃねーよ) 代わりに、いつの間にか大分暗くなった空を見上げ「引き止めて悪かったな」と言えばは「うん、楽しかった」と少しずれた返事を返した かわった奴だと思いながら 急に思い出した名前の質問を口にすると、「同じクラスなのに知らなかったの?」と怒った口調だが表情は至って柔らかいまま名前を教えてくれた 「」 その響きはとてもそいつにあっていると思う だけどそんなこと言うわけにもいかず「うわ似あわねえ」とまるで好きな子をいじめる小学生のように反対の言葉を口にすれば 「ちょっと君失礼ですよ」と冗談を返し笑われた 「じゃあまた、ね」「おう、どうせ明日も学校で顔あわせるだろ」もう真っ暗になった道を街灯が照らし、そこをが走って行く 最後まで見送りたくてじっと見ていると、あいつは急に振り返って笑ったかと思えば、近所迷惑も考えず「はやと!」と俺の名前を大声で叫びやがった 不意を突れた俺が驚きどう反応していいかわからないままで居ると、あいつはいつの間にか闇にまぎれて見えなくなっていた(だから とりあえず明日一番にって呼んでやろうと思う) |