「お前誰?」 「は?あんたこそ誰」 「王子にたてつくんじゃねーよ」 「何王子って、あんた頭大丈夫?」 「うしし、お前王子知らねーの?」 「知るわけないでしょ 世間があんたのことを王子だって言うのなら世の中落ちたものね」 「お前そんなに殺されたいわけ?」 「やれるもんならやってみれば」 「まあいいや、王子はご機嫌だから許してやるよ お前名前は?」 「」 「ね、俺ベルフェゴール」 「(ベルフェ?)」 「ベルって呼んで」 「(何この人 新手のナンパかなにか?)(道端で急に呼び溜められたと思ったら第一声が お前誰 だし)(ぶっちゃけちょう失礼だ)」 「どうせ暇だろ? 付き合えよ」 「は?ちょっと、離さないと訴えるわよ 私がここで大声出したらアンタ終わりだからね、わかってる?」 「王子に逆らえる奴なんていないっしょ」 「なんなのあんたさっきから」 「だからベルだって おとなしく付いて来いよ」 「だから嫌だって言ってんでしょ」 「無駄 つかお前に拒否権はないの わかる?」 「馬鹿にしてる? 誰があんたなんかにのこのこ付いていくか 私には何のメリットもないじゃない」 「何、なんか欲しいわけ?」 「そう問題じゃないの非常識な自称王子」 「付いてきたら何でも欲しいものやるよ、俺王子だもん」 「そんな詐欺まがいの言葉にひかかるか」 「こんな好条件でもまだメリットが無いとか言う?」 「ていうかさっきから会話が成立してないんだけど」
私がそう言えば 彼、自称王子は先程から何度も見せる風変わりな声で笑って見せた この場の雰囲気に不釣合いなそれを不審な目で見ていると、彼は「が俺の話にあわせればいいじゃん」と当たり前のように口にするので、私はささやかな抵抗に「なんで今日初めて会ったいきなりお前誰とか言って来るちょう失礼な奴に私が気を使わなきゃいけないのそれこそ意味わかんない」と嫌みたらしく早口で言い上げてやる だけどそれにも至って動じず、ベルと名乗る彼は「すげー、よくそんな舌回るな」なんて意図的にかは私にはわからないが、話を綺麗にかわされた
「それであんた何しに来たんだっけ」 「を誘いに来たって何度も言ってんじゃん 俺もう疲れたんだけど」 「そんなの知ったこっちゃないわ 疲れたならどうぞ帰れば」 「じゃーとっとと帰ろうぜー」 「は、何で私まで一緒に帰らなきゃいけないの ていうかどさくさに紛れて手を掴まないで」 「だから付いて来たら何でもやるって言ってんだろ それ以上に何を望むわけ?」 「それが本当かどうかなんてわからないでしょ あんたの嘘かもしれないし、ただ私を釣るための罠かも」 「お前警戒心強ー 王子は嘘つかないから安心しろよ」 「その王子が更に信用できないの わかる?」
それに、王子と言えば御伽噺に出てくるような紳士的で笑顔が素敵な白馬に乗ったその人しか思い浮かばない それにしてはこの自称王子とは似ても似つかない様な理想像(まあ本当にこんな王子様がいるのならぜひ会わせて欲しいものだけれど) 頭の中で構成された王子という空想の人物を目の前の金髪の彼と並べてみて、この性格の捻くれ具合と非常識さにより王子という存在からかけ離れた "王子"との"接点"が微少にもあるとすれば、それはその眩しげで誰もが目を奪われるであろう金髪くらいだ かといって髪が綺麗だからそれで良いという訳がない そして頭の上に可愛らしくのせられているティアラも今時の男性のお洒落、にしては大分ずれている気がする(でも似合っているっていうのがまた嫌味) よく見れば自称王子と名乗るだけあって綺麗な顔つきをしているし、こんな状況でさえなければきっと見惚れる くらいはしたかもしれない そして聞き慣れのない名前と、綺麗ではあるが少し違和感のある日本語から彼は明らか日本人ではない事くらいはわかった(だから余計に怪しいのだが) 一体何のために、何のメリットがあってこんなどこにでもいるような平凡な学生の私に声をかけるのかがわからない 寧ろこの我侭王子気取りならなおさらだ
「もういい加減諦めれば 私と似たような人なんてどこにでもいるでしょ?」 「俺がじゃなきゃ嫌 他の奴なんかどうでもいいし さえ来てくれれば他は必要ないじゃん」 「(凄い口説き文句)」 「、一緒に来いって こんな贅沢他にないだろ?」 「私だってたまたま通りかかっただけじゃない そんなこだわる事じゃないし、結局は誰でもいいんでしょ?」 「俺が連れて行きたいのはお前なの」 「私に時間を割くだけ無駄 他を当たってください」 「冷てー、王子がこんだけ頼んでんのに」 「(いつ頼んだよ いつ)」 「ぶっちゃけ最初は誰でも良くて適当に人探してただけだけど」 「(やっぱり)」 「が一生懸命子猫の親探ししてるとこ見つけてこいつにしようって思ったわけ の名前も性格も全部知ってて近づいたんだよな実は」 「ちょっと、それって軽くストーカー それでも自称王子?」 「うわー、王子にそんな口きいたのお前が始めて」 「あんたの周りの方はとてもお心が広いようですね」 「子猫抱いてたときはもっと優しかったのに、なんで俺には冷たいわけ?」 「子猫は無害で可愛いけどあんたは有害な不審者だからよ」 「うしし、お前面白いな 王子のどこが不審者だってんだよ」 「すべて あえて言うなら自分で王子とか名乗っちゃってるとことか」 「ひでー、まあいいけど もうそろそろこの長い会話にも疲れてきたんだよな」 「奇遇ですね、私もです では」 「おい、誰も帰っていいなんていってねーし」 「しつこい人は嫌われます」
はなかなか"はい"と言わない 王子がこれだけ頼んでるにもかかわらず頑固な奴 だけどどうしてもこいつを連れて行きたい俺は物で釣ろうと考えた、がそれでもは"はい"とは言わなかった 名案だったのになー じゃあどうしたら付いてきてるれるわけ?ほんとわっけわかんねー まあこの普通の女とはどこか違うってところがまた気に入ったんだけど、付いてこないんじゃ意味ねーじゃん でもここで引き下がるわけにはいかねーし だって俺王子だもん どさくさに紛れて逃げようとしたの腕を再び掴めば、警察呼ぶとか言い出すもんだからそのうるさい口を塞いでやった うしし、いい気味
「ちょ、あんた何すんの!?」 「が余計なことしようとするからじゃん」
ありえない、ありえない ありえない 警察呼んでやる と叫ぼうとすれば、先程よりか彼の顔が近くにあって目を見開く だけど拒否の声があげられることはなかった 何が起こったか理解できずにぽかんと彼を見上げれば、隠れた前髪で表情は読み取れないものの楽しそうに緩む口元が目に入る それで今の状況を把握した私は頭を抱えた 何でこんな小一時間前に初めて知り合った王子もどきなんかに・・・! しかも今まで恋人と言うものをつくったことがない私は、いわゆるこういうことは初めてなわけで
「ありえないんですけど!」 「なにが?」 「何がって、あんたがよ 非常識にも程がある 訴えられてもおかしくないんだからね」 「へー、まあどうでもいいけど」 「(コイツ私の唇を奪っておいてどうでもいいで済ませやがった!)」 「うしし、もしかして初めてだった?」 「(すいませんもの凄く腹立つんだけど)」 「マジ? でもちょうどいいや、責任とってやるから心配すんなって」 「何言ってんのあんた まるで私を嫁に貰ってやるみたいな言い草」 「だからそう言ってんじゃん 王子の事気に入っちゃったし ていうか最初からそのつもりだったんだけど」 「(捻くれすぎてわかりにくいけど、これプロポーズですよね)(ていうかなんでちょっと嬉しいとか思っちゃってんの自分)」
「ねえ、自称王子」 「だからベルだって」
「・・・ベル、付いていったら何でも欲しいものくれるって言ったよね? それ今でも有効?」
「王子は嘘つかねーし が欲しいものなんでもやるよ」
じゃあベルの心が欲しい って言ったら、つかもう盗られちゃってるんだけど って笑われた
交差するドロワット
(ベルは私の中で自称王子からほんとの王子に昇格したよ)