「獄寺くん、今日はどこ行くのー?」 世に言う一般的な学生なら、今頃真面目にそれぞれの学び屋で勉学に励んでいるであろう時間帯 そこにふたりはいる 誰かの声とともに自転車を漕ぐ音が止まると、その人は柄にもなく驚いたように振り返り、だけどすぐに表情を歪めてこれ以上ないほどの嫌そうな顔を浮かべ、直ぐに視線を正面へと戻した 「・・・またお前かよ」 「ちょっと、どこいくの」 再びペダルを漕ぎ出した彼を止めるようにパーカーの帽子を掴む すると獄寺は予想どうりの反応でペダルを漕ぐ足を床へと下ろした 「いてーだろ 殺す気か」 「わたしもつれてって」 「はあ?」 「だからわたしも連れてって」 さもないと今すぐ親と学校に連絡するからね獄寺隼人くんが今まさに学校をサボろうとしてまーすって そうでなくてもかってにくっついて行くけど 一息でそう言い脅しをかけるも、彼は額にしわを寄せたまま面倒くさそうに、どうせ何言ったってついて来るんだろ とわかりにくい肯定の言葉(少なからずはそう受け取った)を残し今度こそとペダルに足を掛けて漕ぎ出した その後聞こえてきた つーかそんなことしたらお前もサボりだって言ってるようなもんだろという言葉を彼女は聞こえなかったことにする 「まってよ」 動き出したそれに手をかけ勢いよく跨ると、二人の重みを支えて走る自転車は少しばかり左右に揺れた だけど、もう何度目かになるそんなことを彼等が気にするはずもなく、二人を乗せた自転車はそのまま勢いにのって止まることなくスピードを上げていく それと同時に肌寒いほどのひんやりとした風が頬を掠めた 「どこいくの?」 「さーな」 「さーなって、じゃあのこ自転車はどこ向かってるわけ?」 「走ってたらどっかには着くだろ」 「つまんないの」 「お前が勝手に着いて来たんだろ」 頬に風を受けながら横に体を倒せば、自転車もぐらりと傾いた あぶねーだろという彼の声を風と共に流しながら前を見ると、波の荒い冬の海が太陽に反射して光っているのがの眼に映る 同じように獄寺も自然と広い海へ目を向けていた 「つーか何でお前いつも俺がサボるのわかんだよ」 「勘」 「こえー女 出席日数足りなくなるぞ」 「平気、わたし天才だから」 「言うと思った」 勢いよく坂を下りきる その先にはやはりまだ先の見えそうもない長い道が続いていた 「こんなとこ自転車で来たの初めて なかなかいいね、自転車も もう何度もこうやって色んなとこ行ったけど毎回気付いたら知らない場所にいるんだよね それで帰りはなんだかんだ言って家まで送ってくれるんだから獄寺くんは」 ていうか、うんとかそうだなとかせめて相槌くらいうちなよ 彼女が一人話し終えた後そう言うが、彼は何か遠くを見ているだけで返事ひとつよこさない だけどそんなことになんてなれてしまった彼女は、何を思ってかやはり話そうと口を開きかける がそれは思いのほか彼に遮られた 「この風の抵抗感がいいよな」 「かっこいい事言ってるけど髪が乱れてるよ獄寺くん」 「うっせ−黙れ」 次ぎ喋ったら落とす 口ではそう毒づくが、見た目ほど悪い人じゃない彼がそんなことをしでかすはずもなく、それをも十分に理解していた 「ここは海が綺麗よ獄寺くん」 「海なんてどれも一緒だろ」 「あ、これだから庶民は」 「お前ほんとは落とされたいんじゃねーの」 「わたしがMだと誤解を受けるような発言はよしてください」 「・・・」 「ほらまた無視したし」 「お前マジで黙れ」 「そういうこと言っていいのかな?」 が右へ体重をかけると、自転車は彼女の思惑通り右へ大きく傾いた 「おい、殺す気か!」 「一緒に死ねるなんて光栄でしょ」 「お前と心中なんて死んでも死に切れねーよ」 「わたしは良いと思うな」 だって好きな人と一緒に世界を終えられるなんてこれ以上幸せなことってないじゃない まあ獄寺くんにはわからないだろうけど が口を開けば 彼女が揺らさずとも自転車は大きく傾き、倒れる直前 獄寺の足が地面に着いた そしてそれには彼ももう懲りたのか、自転車のペダルに足をかけようとはしない 「お前何今の」 「あれ、もしかして動揺した?」 それは可か否かどっちの意味で?と問えば、彼は もう喋るなとだけ口にして自転車の向きを来た方向へとかえた 自転車がまた動き出して、ああもう帰るんだななんてが思っていれば、忘れた頃に珍しく獄寺から口を開く いつもとは何か、どこか変化があった事になんて彼女はまだ気が付いてはいない 「」 世界の果てまで連れてってやるよ 夕日が海をあか色に染めた |