「あんた、いつも俺のこと見てるよな」 放課後、思いを寄せる彼の後姿に目を奪われていれば、その人は思いがけず振り返り私のほうへと足を向けそう口にした 目が合った、などということで喜んでいる場合ではない 嗚呼終わった 私の短い人生が今終わった 死にたい、本気でそう思った 「そそそんなことないよあべくん」 「嘘つけ だって今もほら、目合っただろ」 「それは、今のは偶然で」 「今のは?」 「あ」 どうやら今日は厄日らしい こうして私は本日二度目の墓穴を掘る羽目になるのだ ほんとついてない 大きなため息を漏らすと、隣の阿部くんの視線が私の憂鬱な横顔に注がれていることに気が付く 「なに?」と問えば 彼は「なにじゃねーよ」となぜか機嫌の悪そうな顔で、私が一番聞かれたくない言葉を口にした 「さ、俺の事好きだろ」 「なにいってんのそんなわけないじゃん」 阿部くん意外と妄想家なのね! そう言うと、普段から怖い阿部くんの表情がさらにきつくなる(あ、もう誤っても許してもらなさそう) 「じゃ、じゃあまたね!」 「おー、またなー って帰すと思うかこのバカ」 「さすが阿部さん」 「何がだよ」 私が商売上の究極ともいえる笑みを浮かべるも、彼はにこりともしない さすが私の思い人、と褒めたてるも何も出るわけはないのだ とにかくこの雰囲気から逃げ出したい一心の私は、無理やり話を終わらせるべく口を開いた 「じゃあ本題に入りましょうか」 「お前と話してると疲れるな」 「ありがとう よく言われる」 「・・・」 「あべくん私」 「なんだよ改まって」 あ、どうしよう急に緊張してきた 飛び出しそうになった心臓を抑えるように胸に手を当てると、今まで表情ひとつ変えなかった(というかずっとおでこにしわを寄せてた)阿部くんがちょっと心配そうにしたので、緊張で縮こまってた胸が少し和らいだ気がした (気のせいかもしれないけど) 「私あべくんのことすき」 「ああそう」 「え?(ああそう?それだけ?)」 「あの、阿部くん?」自分から話題を振っておいてその薄い反応はないだろうと目で訴えれば、彼は少し間をおいて(そんな間も私はずっとどきどきしてた) 「俺もずっとのこと見てた」 って今まで生きてて一番嬉しい言葉をくれた そのときの彼の顔を私は一生忘れることはないだろう |