ハナが死んだ。 ハナというのは私が生まれて間もない頃に母が貰ってきた私と同い年の犬で、15年間を一緒に過ごしてきた大切な家族だった。 どこへ行くにも何をするにも、家族のように長い時間を過ごしていたハナとの別れは、まだ大人になりきれない私にとって、とても悲しく一生忘れることの出来ない事件となる。そしてそれは今からちょうど3日前の事で、未だにまだハナの死を受け入れることが出来ない私を、幼馴染でハナにも懐かれていた綱吉がなだめるように話を聞いてくれるのだけれど、ハナとの思い出に浸れば浸るほどその悲しみは大きくなるばかりで、そんな話をしているうちに目の前がぼやけてよく見えなくなっていた。
私の視界を遮ったものの正体が自分の涙だと理解したのは、彼が私の涙を(たぶんおばさんが買って来たのであろう可愛らしい花柄の)ハンカチで拭ってくれたときだ。この時ばかりは、いつも頼りなさすぎて目をつぶりたくなるような幼馴染でさえも何故かしら頼りがいのある男の人に見えたりもするのだから、世の中何があるかわからない。 綱吉が、「ハナだって一生懸命生きたんだよ」って言えば、ああそうなんだって思うし、「いつまでもがそんなんじゃ、ハナも悲しむだろ」と言えば、やっぱり同じようにそう思わされた。
私の幼馴染は、日頃はこっちが泣きたくなるほど(あ、これはいいすぎか)頼りないくせに、こういうときに限って見たこともないような表情や行動をしたりして私を驚かせ困らせるのだ。 だけどそんなところもまた綱吉の長所であって、それが見れるのは幼馴染でもある私の特権だと思っている。本題からは随分脱線しているけど、だから最近学校で彼に仲のい友達が増えたり、その友達を家に連れてきたり、私との時間よりも彼等との時間の方が増えたことに対して不満を感じていた。そしてその不満の一番の理由が、遊びに来る友達が男ならまだしも、問題は女の人(明らかに年上)やどこで知り合ったのかもわからない他校の女子生徒まで当たり前のように家に上げ、しかも晩御飯とかご馳走しておるところだ。そんな綱吉もどうかとおもう。 「純粋で無垢な幼馴染の綱吉はどこにいったの」って口に出せば、綱吉は「案外平気そうだな」って言うから「そんなわけないでしょこのばかたれが」って目に溜まってた涙を瞬きでわざとこぼして泣いたふりをすれば、ばかな綱吉はあわてて「ごめん」って見るからに気を落とした。(ほんとばかなこ)
(だけどそんなところがすきよ)
いつの間にか、ハナとの永遠の別れよりも、綱吉と離れることのほうが悲しいなんて思えてきて、私の思考は悲しみで溢れかえっていた。
は俺の部屋にいつもどうりノックなし(ていうか家のインターホンすら鳴らさない)で押し入ってくる。だけど急に「つなよしいいいい」って大声で俺の名前を呼びながら胸に飛び込ん来たから、それには俺も驚いて、「どうしたんだよ!?」っていつもの(自分で言うのもあれだけど)情けない声が出た。 でもそんな間もは俺の腰にぎゅっと手を回したまま泣きじゃくっていて、わけを聞いても首を振って泣いているだけで俺には何が何だかわからない。
こんなことは今までを思い出せば別に初めての事じゃないけど、やっぱりこんな目の前で、いつも強気で元気で明るいがもっとうに生きているような幼馴染に泣かれると毎度のことながらどうして良いのか全くわからない、15年間全く変わることのなかったどうしようもない俺がいた。 そしてこんな時山本なら軽く慰めてなんかすぐ笑顔にさせちゃうんだろうななんて考えてたらちょっと落ち込んだ。
だけどが、「ハナがハナが」って泣きじゃくるからそんなことはどうでもよくなって、なだめるように頭を撫でてやれば、「ハナが死んじゃったの」って先程と比べようもないほど(でもやっぱり女の子だからそれほど痛くはない)腕の力を強める。そして気が付けば彼女は目元に涙を溜めたまま目を閉じていた。(寝てるときはかわいいのにな)
そう思ってたら、「ねえ」ってが目を閉じたまま口を開いて、あれ起きてたんだって思いながら「なんだよ」って返事をすれば、は泣き疲れたのかとろんとした目でもう一度俺の名前を呼んだ。
「ねえ綱吉」
「なに?」
今日一緒に寝てもいい?
ばかな子ほど可愛い。私は、たまにかっこよく見えたりもするけどいつもの馬鹿でとっても情けない綱吉がすきだとわかっていたんだろう。
ただ、今はもう少し この馬鹿な子の幼馴染ごっこに付き合ってあげようと思う。
俺は、いつもうるさくて迷惑だと思っていたが泣く顔が一番苦手だ。それが何を意味するのかなんてわかってたけど、今はまだこのままでもいいかと思った。
私達は皆、矛盾だらけだ
矛盾する二面
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