「陛下、貴方はどうして陛下なの・・!」
「おお、愛する、お前は何故なんだ!」
「二人とも、遊んでないで仕事して下さい」

上から、、ピオニー、ジェイド。
先者二名がどこか姿が見えないということでジェイドが探しに来てみれば、二人は真剣ににロミオとジュリエットだと思われる劇の真似事をしている最中だった。どういう経緯でこんなことになったのかは知らないが、彼にとっては迷惑極まりない。

「あれ、ジェイドいたの」
「今度は何の遊びですか?陛下」
「ロミジュリごっこだ」
「(どうでもいい) 随分と楽しそうですね」
「何だ、ジェイドも混ざるか?」
「遠慮しときます」

「それより陛下、ご覧の通り書類が溜まってます。いい加減仕事してください、仕事。」
ジェイドは言葉を発すると共に机に山積みにされた紙の山を指差す。だけどピオニー陛下がそんなことを気に留めるはずもなく、「俺は今忙しい」と仕事と遊びを秤にかければ当然遊びが勝るピオニーは当たり前のように仕事を打ち切った。

「ジェイド、いいの?」
、こうなった陛下はもう私にも止められませんよ」

「とことん相手してあげてください」そう言った彼は、いつもとなんら変わりない張り付いた笑顔で余計に寒気がする。
怒っている。確実に。それもこの上ないほどに。
は彼の笑顔でそう確信する。 だけど、その原因の一人であるピオニーの姿は、もう既にそこにはない。
すると彼の怒りは勿論のこと残されたに向けられるわけで、それを無言の間に理解した彼女は蛇に睨まれた蛙のように小さくなって彼の怒りを大きくしないよう努める他なかった。



「あの、ジェイド」
「何ですか?」
「・・・」
「呼びかけておいて無視とはいい度胸ですね
「違います」
「何が違うんですか」
「ジェイドこそ、何怒ってるんですか?」

たかが陛下のお遊びごときでそこまで怒る必要もない。ピオニーが仕事をサボって遊び歩くのは今に始まったことではないからだ。
そんな事などはとうに彼もわかってるだろう、それなのに。
どうも今日のジェイドは、いつになくご機嫌ななめのように見える。

「怒ってなどいませんよ」

貼り付けた笑みを強くしたジェイドからは、誰から見ても確かな怒りが感じられるはずだ。しかし彼はそれを認めようとしない。
が終わりの見えない会話に飽き飽きしてきた頃、更に彼から問いかけられた「私のどこを見ればそのように思えるのですか?」という言葉に、彼女は「全てです」と答える。だけどその後ジェイドの口から放たれた言葉は、どうせ自分の答えにもまた屁理屈を返して来るのだろうというの予想とは全くと言って良いほど反していて、思わず彼女も彼の口から出た言葉を聞き返してしまった。

「あの、今なんて?」
「劇の続きでもしましょうか、と言ったつもりですが」
「はあ」
「それとも、陛下とは出来て私とは出来ないと?」
「誰もそんなこと言ってませんけど」

「なぜ急に?」そんなことを問うても多分その人は求める答えはくれないのだろう。いつものこと、真面目な話を持ち出したときは誤魔化されるのが落ちだ。
が「だけど私ここから先はよく知らないんです」(そもそもジェイドはロミオとジュリエットなんてものに興味があるのだろうか、という疑問は頭の隅において置き)と嘘偽りなく述べれば、彼は意外にも「教えましょうか」と話に乗り出した。
まさか本気か。
一瞬嫌な考えが頭を過ぎるが、彼女はそれを無理やり掻き消し笑みを作った。 (そんなはずないじゃないか) たとえ天地がひっくり返ったって、ジェイドがピオニーごときの遊びに付き合おうなどという気を起こすはずがない。そんなことは今までの経験からしてわかりきっている。

「ジェイド、」

部下をからかうのも大概にしてくださいと言おうと名前を呼べば、彼はの頭の上に手を置き撫でるようにした後、優しく微笑んだ。
彼女がその手に驚き顔を上げると、ちょうど下りてきた彼の視線と交わる。

「私は、貴方のためならこの地位も全て捨て去ってしまえますよ



malattia d'amore

(え、お芝居の続きですか?)(そうですねえ、今はまだそういうことにしておきましょうか)