朝、いつもどうり枕元でけたたましく鳴り響く目覚まし時計をなれた手つきで止める。今日は日曜日。学生は家で十分な休暇を取るのが仕事。言い方を変えればあと二、三時間は眠りたいのだ。 覚醒しきらない頭で考え、再び布団に顔を埋めるがしかし、そんな彼女を数分後に鳴りだす携帯の電子音が再び現実に引き戻した。 「、電話鳴ってる」 「隼人出てよ」 「は?お前の携帯だろ」 「隼人の方が近いし」 「関係ねーよ」 初めはメールかと思いそう気にもとめなかったが、やけに長い間鳴り止まぬ携帯を見て、先に(お世辞にも気が長いとは言えない)獄寺が痺れを切らした。彼女はというと、寝ているのかそうでないのかもわからない状態のまま布団に埋もれている。 つまり目を覚まして一度も動いていないということだ。 「おい」 彼が声をかけるも、応答すら無い。そんな事をしているうちにとうとう耳障りな音も鳴り止み、部屋には元の静かな時が流れた。 「」 「なに」 布団を大きくべらりと捲れば、肌寒そうに身震いする。子犬のようだ。 「死んでんのかと思った」 冗談混じりに彼がそう言うと、「まさか」と彼女も笑ってみせた。 「私が死んだら、灰は海に撒いてね」 「何言ってんのお前」 「死後の計画」 「嫌に決まってんだろ」 誰がそんなことするか、死にたいなら勝手に死んどけ。彼はそう言うも、真面目なの表情に内心どきりとする。女という生き物は何を考えているかわからない。しかし、今彼女が考えている事がろくでもない事だということだけはなんとなく想像できた。 こんなときに言うのもなんだが、どうせ昨晩見た韓国ドラマが頭から離れないのだろう。 「私が死んだら、隼人は他の人と幸せになるのかしら」 「そうだろーな」 「ちょっとは否定してよ」 が不服そうに顔を歪める。 「じゃあ聞くなよ」 「聞きたかったの!」 少し声を大きくした彼女にどうしたのかと問えば、やはり昨晩のドラマが原因らしい。 それは、若くしてアルツハイマーにかかった彼女が日に日に恋人のことを忘れていくという内容で、最終的には命を落とすという。彼からすればそこまで思い入れるような作品ではなかったが、どうやらは違ったようだ。 「離れたくないなら死ななきゃ良いだろ」 「そんなのわかんないじゃない」 「お前ドラマの見すぎ」 「隼人には情ってものが無いのかしら」 布団の中でごろりと一回転して何気なく携帯に手を伸ばす。そうして開いた画面には、"山本"と大きく表示されていた。そんな彼女の様子を後ろから獄寺が覗き込む。正確には、彼女の携帯の画面を、だ。 「山本の奴何の用だよ・・」 「プライバシーの侵害」 「俺に見られたくないわけでもあんのか」 「女の子には秘密が付き物よ」 「(無視)」 「山本に電話かけなおさなきゃ」 「ちょ、おま!」 「うーそー」 「・・・」 くすくすと彼女が笑う。実際くすくすなんて笑い声は聞こえていないが、他に例えようの無い笑い方だった。そんな会話をしているうちに、再び着信音が響く。勿論それは彼女のもので、画面には先程と同様の名前が表示されていた。 「(山本だ)」 「(またかよ!)」 がどうしようかと画面とにらめっこを続けていると、彼の手が後ろから伸びてきて、それを奪い去る。驚いて振り返れば、同時にうるさい呼び出し音も消え去っていた。 「死んでも一緒にいろよ」 部屋には彼女の笑い声が響いた。 約束は二人のもの |