私は彼が好きで、だけど彼はあの子が好き、なんて珍しい話じゃない。恋愛小説じゃそれが当たり前だし、今じゃ切なさを売りにした恋愛ドラマだっていっぱいある。実らない恋の話のどこがいいのかと度々考えるけど、やっぱり理解できない。世の中そんなもんだ。

「骸さん、私振られちゃったのかしら」
「残念ですが、そうでしょうね」
「思ってもないくせに」
「おや、貴女にはお見通しですか」

には僕のことなら何でもわかってしまうのですね、なんて言う彼のふざけた言葉は無視して前を歩く二つの影に視線を戻す。そこには、つい今さっきまで私の隣にいた人と、クラスでもかわいいって人気の女の子。どう見てもお似合いで恋人同士にしか見えない二人は、仲を見せつけるように手をつないでいた。ああこんなのってない。

「手を繋いでますね」
「そうですか」
「何だかいい雰囲気ですよ」
「言わなくてもわかってます」

ていうかいちいち報告するのやめてほしいんだけど。嫌がらせですか。そんなうちに二人は角を曲がり、私達の視界からは見えなくなった。見たいわけじゃなかったけど、そこにいるのに見れないっていうのもなんだか嫌だ。だからといって二人を追いかけるのなんかもっといや。でも一番嫌なのは、そんな私のことを全部分かてるかのように言うこの人。すごく不快。何も知らないくせに知ってるようなふりをする。今だってそう、私は何にも言ってないのに、彼は気が付けば何でも知っているかのような表情でそこに存在しているのだ。もしかしたらほんとに知ってるのかもしれないけど、そうだとしたらそれはそれで彼の素性を疑わなければいけない。

、あんな奴は忘れてしまいなさい」
「言われなくてもそうしますよ」
「それはよかった」
「骸さんには関係ないですけどね」
「そうもいきませんよ」
「な、」

何故ですか、って言おうとしたのに、言わせてもらえなかった。彼が私の名前を儚げに呼びながら口元に手を持ってきたからだ。聞くなって事なのか、それともこれが答えなのか。結局、彼のことは何一つわからないまま。わかっているのは、名前と、彼が身勝手で気まぐれで少し頭がおかしくて、ついでに言うと髪型もおかしい。でも、いて欲しいときに必ずそこにいる。変わった人だということだけだ。

「おかしいですね、僕はといると幸せなようです」
「骸さんは手品師ですか?」
「何故そう思うのですか?」
「質問を質問で返さないでください」
「これは失礼しました」

僕は手品師ではありませんよと彼が言った。じゃああなたは何者なんですか、骸さん。そう問えば、僕は六道骸ですと微笑んで私の頬に手を寄せた。何言ってんのこの人、そんなこと知ってる。そんなこと教えて欲しいわけじゃないって絶対わかってるのに、頑として教えてはくれない。

「骸さん」
「なんですか?」
「なんで、いつもここに来るんですか?」
「なぜでしょう」

骸さんの目が私をとらえた。左右色の異なる魅惑の瞳は、彼が何を考えているのかよりわからなくさせる。私は魔法をかけられたように動けなくなって、彼の瞳を見つめ返した。

「ただ、貴女が泣いているような気がしたんですよ」
「別に泣いてません」
「そうですね」

彼は、マジシャンなんかじゃなくて、もっとたちの悪い生き物。そう、ただの詐欺師だ。頭が良くて、何でもうまく丸め込んでしまう。だっておかしいもの、さっきまで変人だと思ってた人に、今はこんなに夢中だなんて。

海路の出口