「ねえ、なんで隼人あんな機嫌悪いの?」

「さあな。本人に聞いてみたらどうだ?」
「それができたらとっくにしてるし」
「まあそうだよなー」

気楽に笑う山本と同じように目線を噂の人物に持っていくと、今まさに彼の視線もこちらに注がれていた。
彼とは一週間ほど前からこんな調子で、口をきくこともまともに顔を合わせることすらない。このようなことになった理由もわからないのだから、解決しようにも出来ずにいる。 とりあえず最近隼人と仲の良い山本にでも相談してみるのだが、あまり意味はなさそうだ。(この役立たず…!) しかしこの非常に厳しい状況を誰かに言わずにはいられないので、ここ数日ずっと同じような話を山本としているわけである。(別に他に友達いないわけじゃないよ)(だけど隼人の話を花や恭子とかにしても意味がないと思うの)

「あー、ほら目があ合っちゃった」
「話し合ってこいよ」
「ムリムリ、だって見たでしょあの目」

話し合いになんて行ったら、私殺されちゃうよ。そう言ったら、山本は大袈裟だなって笑うけど、私にはそれくらい一大事だ。
付き合ってから今まで、喧嘩なんて数え切れないほどしてきたけど、ここまでお互い口を利かないのは初めてじゃないだろうか。 まあ一方的に彼が怒っているような感じだけど。(ていうかそうだ)私は意味もわからず彼の怒りに脅えている。 授業中だって目が合えば睨むし、かといって話しかけようとすれば思い切りさけられる。これじゃあ私も動くに動けない。(いったい私にどうしろっていうの)

「もうやだ山本助けてよ」
「出来れば助けてやりたいけどな」
「あ、その顔はうそだ」
「いや嘘じゃねーって!」
「山本武の人でなし!」
「そう言うなって。ここで俺が入ったら余計ややこしくなりそうだろ?」
「まあそうだけど」

だからって私一人じゃ、解決するどころか悪化してゆく一方に決まってる。ほんとどうしたらいいの。
もう一度横目で隼人を見れば、彼もチラリと一瞬こちらへ視線を向ける。(あーもう) ほら行って来いよとか言う山本に背中を押されて(しかもこいつかなり勢いよく私を叩きやがった)(後で覚えてろ山本…!)一歩踏み出せば、彼も立ち止まって私を待っているようにも見える。 (内心かなり怖い)その上私が丁度彼に向かい合うようにして立った時、追い討ちをかけるようにタイミングよく授業開始を告げるベルが鳴った。廊下にいる私たちに、通り際先生が声をかける。
ごめんね先生、でも今それどころじゃないの。
隼人も、私をまっすぐ見ているため先生など視界に入っていないようだった。久し振りの対面に、緊張で脂汗が浮かぶ。そんな私をよそに隼人は私の手をつかんで歩き出し、迷うことなく屋上へと連れ出した。


「隼人、痛い!」
「…黙ってろ」
「何怒ってんの?」

言ってくれなきゃわかんない。そう言えば、言ってもわかんねーだろって手を離される。掴まれていたところが、痛い。

「山本は話し合えって言うけど、」
「そういうのがムカつくんだよ…!」
「な、に?」
「お前見てるとイライラする」
「なんで?私隼人に何かした?」

ていうか隼人っていっつも一人で勝手に怒るし、意味わかんないんだけど!
はっきりしない彼につい口走れば、お前があいつとばっか一緒にいるからだろうがって逆切れされた。(なになんでどうして) 楽しそうにしてんじゃねーよって目をそらす彼は、どう考えても

「なんだ」
「は?」
「それって山本に、」
「…んなわけないだろ自惚れんじゃねぇ!」
「まだなんにも言ってないけど」
「うるせーな」

とにかく! 彼が声を荒げた。

「あのヤローには近づくな」
「それは無理かな」
「はあ?なんでだよ」
「だって友達だし」

でも、
でも、隼人が私のことすごく好きなのはわかったから って今度は私から手に触れれば、(証拠にもなく暴言は吐いたけど)(調子に乗るんじゃねーとか)握り返した手からぎゅっと隼人の温度が伝わってきて、今まであった些細な喧嘩のことなんて忘れてしまった。だからもう今日は授業なんか出るのはやめにする!






誰もいない

世界にふたり

好きって言ってよ バカは好きじゃねぇ! 隼人って意外とツンデレ?