春は恋の季節というけれど、それは神様に選ばれた一部の可愛い女の子たちに用意されたものであって、私には全くといって良いほど無関係だ。 生まれて16年、恋という恋もせず育ってきた私は、毎年のようにこの時期に結ばれる恋人たちをただただ眺めるばかりで我ながらなんて虚しい人生なんだとは思っている。私だって変ろうと思ったこともあったけど、だけど人間そう簡単には変われず、今年も例年どうりのこの時期を迎えてしまったというわけで もう半ば私の人生に恋というものは必要ないんじゃないかと諦めてもいた。恨むとすれば、私をこの顔に生んだ両親を恨むしかない。そしてしょうがないことだったんだと言い聞かせるしかない。今までの人生で少なからずもそう学んでいた。可愛い子は最初から、ずっと可愛いし、そうでない子はどこまで行っても可愛いこの仲間には入れない。私がそうだったように、世の中それが当たり前。こういうわけで、今の何に対しても前向きになれない私が出来上がった。 「あの、ごくでらくん」 「何だよ」 効果後うろうろしてたら先生に出くわして、荷物持ちを手伝わされた。そしてさらに運の悪いことに、獄寺に渡しといてくれとか了承もしてない私に無理やりプリントの束を渡してくる。(かといって断りもできないのだけれど) 私が恐る恐る(だって獄寺くんなんか怖いし話したことなんて無い)彼を呼べば、想像どうり獄寺くんは眉間にしわを寄せた怖い顔で振り返って私を睨むように見た。(ちょっとほんとにこわい)だから私はあえて彼を見ないようにとちょっと下に視線をはずす。 「・・・これ、先生から」 「あー、わり」 「う、ん」 とりあえず彼の顔が怖いので用件だけ伝えてプリントなんかさっさと渡して帰りたい。頭の中で帰りたい帰りたいって繰り返しながら、じゃあ ってそっと下げていた顔を上げたら、獄寺君はさっきより怖い顔で私を見下ろしていた。(因みに彼のほうが私より10センチくらい背が高い) 「おまえさ」 「な、に?」 「やっぱなんでもねー」 「・・・え?」 「いや、」 って全然人の目見て話さねーんだな そう言った獄寺くんに (いや、もしかしたら始めて彼の口から聞く私の名前に)顔を上げると、彼も私を見ていた。押すにも引くにも怖くて、そのまま口を開く。 「だって、獄寺くん いつも怒ってるし」 「怒ってねーよ」 「眉間にしわよってる」 「・・・」 ほら今だって、そう言って彼のおでこを指差せば、獄寺くんは何も言わずにおでこのしわだけが深まった。獄寺くんは相変わらずの顔で私を見下ろしている。不良で、短気で、まともじゃないけど、それでも皆がかっこいいって言う理由はなんとなくわかった。でもやっぱり山本くんのほうがとっぽど爽やかでわたしは好き。(そう言う意味じゃなく友達として) 「獄寺くんって山本くんとなんで仲いいの?」 「は?仲良くねー」 いい加減なこと言うと殴るぞ とか言う不良の言葉が聞こえた、気がする。(きっと気のせい) 「だっていつも一緒に居るから」 「あいつはおまけだ」 「そ、そうなんだ」 「お前山本のこと好きなわけ?」 「いや、違うます」 「・・は?」 「違うと思う」 山本くんはこんな私にだって優しくしてくれるし、爽やかな野球少年だし、人の悪口とか絶対言わないクラスの人気者だから、好きと言うよりは憧れなんだろうなと思ってる。それくらい、好きになるにはほど遠い世界の人。ああいう人になりたいなあ、って。そうやってそのまま獄寺くんに言ったら、馬鹿じゃねーの の一言で片付けられた。(この人に言うんじゃなかったな)(いや わかってたけど) 「俺は山本が嫌いだ」 「なんで?」 「あのうそ臭い笑顔がむかつく」 「そ、そうかな」 「だから、お前はお前のままで良いんじゃねーの」 あんな奴の真似なんかしなくても、前向いて歩けばいいし、 予想外の言葉に瞬きも忘れた。そういえば、今初めて話したのに私情とかまで話しちゃって、何考えてるんだ私。落ち着け自分。だけど思ったほど怖い人じゃないことはわかった。むしろ格段に良い人ランキングの階段を高スピードで上がってきている。 「俺は、クラスでより可愛い奴はいないと思う」 そのとき彼が、山本くんに追いついて 追い越す。 そして、こんなにも簡単に世界はかえられた |