世界の終わりがあるとすれば、まさに今。というのは言葉のあやであるが、切実に、嘘でもなんでもなく今すぐ世界が終わればいいと願った。 「」 「・・はい」 「そこ、オレの席」 「あ、ごごごめん・・!」 「いや、別にいいけど・・」 教室には、私と阿部のふたり。事をさかのぼること数十分、私は一人になった教室で友達を待ちぼうけする間、特に意味もなく想い人の席に目を留めた。そもそもこれがいけなかったのかもしれない。自然と私の足はその席へと向かい、手を触れると、誰もいないことをいいことにその席へ腰を下ろす。好きな人の席に一度は座ってみたいという乙女心をいらぬときに発揮して、そこからその人がいつもどんなものを見ているのかとか考えながら、ただ何をするでもなくそこにじっとしていた。そうしてつかの間、重たいドアが私の意志を無情にも無視しガラリと問答無用に開けられ、そこには私が今現在無断で腰を下ろしている席の持ち主というかとりあえず私の想い人阿部隆也という人物がいた というわけである。後悔先に立たずとはまさにこのこと。もし今日が地球の最期だというならば、むしろわたしはそれに感謝するだろう。 「つか、なにしてんの?」 「座ってた、だけ」 だってこの席が一番風通しも眺めもよさそうだから、ってとっさに口からでまかせを言うと、彼は見るからに怪しそうな顔をする。ちょうどいいことに阿部の席は窓際の一番後ろで、外の風景も見え今の時期風は気持ちいい、おまけに先生からも見えにくいときた一番の当たり席だ。わたしなら絶対この席がいい!そう思う!って力説したら余計怪しまれた。 「ほんとかよ」 「ホントだよ」 「なんだ」 「なんだって?」 「てっきりがオレのこと好きなのかと思った」 未だに阿部の席に座っているわたしの前の席、元を言えば阿部の前の席に、向かい合うようにして腰を下ろした彼とその口から出た言葉に驚いて声が出なかった。鋭い阿部なら、もしかして勘付いていたかもしれないけど。結局、否定も肯定もすることなく先に彼が話を変えてしまった。 「、お前オレが何しにここ来たかわかる?」 「忘れ物」 「即答かよ」 「あれ、違った?」 「いや、ある意味当たってる」 「・・何ある意味って」 わたしがそう言う前に彼が窓の外を指差す。何も無い、グラウンド。今日は確か部活も休みの日で人影一つ見当たらない。そんな顔をしていたのがわかったのか、阿部はグラウンドで三橋の練習見てたって言った。でもだからどうしたんだという話で、更に意味がわからない。彼が呆れたように私を見たから、彼を見ていたわたしと必然的に目が合った。 「あそこからがいるの見えた」 「え、うそだ」 「嘘ついてどうすんだよ」 「そりゃそうだけど」 だって、その言い方だとわたしが見えたから来たみたいに聞こえるんだよ!ってそう言ったら、だからそう言ってんだよって、阿部が 言った。もう一回聞き返したから聞き間違いではないはず。それともわたしのあたまがどうかしているのか、二つに一つ。 「それで、は何でここ座ってたわけ?」 「さっき言ったじゃん」 「聞いてない」 「うそ!言った!」 「嘘ついたのお前だろ」 「・・・」 「何だよ」 「阿部が好き!」 やっぱり世界は平和であって欲しい。そう言ったら何の話だよと阿部が笑った。 lastly. |