すれ違っただけでどきどきして、目が合ったときは嬉しくてそれだけで一日頑張れる。誕生日が近かったり、血液型の相性がよかったり、普段なら気にもしない恋愛運とかが気になって柄に無くラッキーアイテムとか持ち歩いたり。登校途中も下校途中も、授業中だってふと思い出しては頭から離れない。席替えがあるたび、『もしも』を考えてやけに緊張する。隣の席なんかになった日にはもう、神様に感謝すると同時授業なんか集中できやしない。遠くても、同じ列だったらそれだけでちょっとテンション上がる。他の女の子と仲良さ気だと胸が痛いし、どうしても気になる。それがまた仲のいい友達だったりしたら凄く複雑。心の中で、誰に聞かれるでもなく好きなところをひたすらあげてみる。振り向いてくれたら良いなと期待もしてみる。その他もろもろ。以上のことから、恋の始まりはこんなにも楽しい のに、


『幸せなのは、最初だけ』と誰かが言っていた。はじめは好きだというその気持ちだけで全てがよく見える だけど、だんだんと欲や真実が見えてきて結果切なさに変わる。好きだと思ったりやっぱり気のせいだと思ったり、諦めようと思ったりだけどできなかったり。傷つくのが怖い女の子にとって、所詮は自分の勝手な理想にすぎない。恋ってそんなもん。


「何だかあっけないなー」
「そんなもんだろ」
「隼人には迷惑かけたね」
「今更言うんじゃねーよ」


幼馴染というかクラスメイトというか悪友というか、そんな感じの彼とはもうずいぶん長い付き合いになる。加え私の恋の始まりと終わりを知る唯一の人でもあった。よくよく考えてみれば、短い恋だったと思う。だけどこの恋はきっと本物じゃなかったと私は自分に言い聞かせた。そうしろって目の前の人物が下手ながらにも慰めてくれたから。こういう時、幼馴染っていうのはありがたいものだと思う。というか隼人に慰めてもらう日が来るなんて私も末期だわ、なんて口が滑ったら頭をグーで殴られた。


「つかあの雲雀なんかのどこがよかったんだよ」
「もういいじゃんそんなこと」
「よくねー、俺がここ数ヶ月どれだけ話聞いてやったと思ってんだ」
「・・そういえばそんなこともあったねー」
「お前いい加減殴るぞ」
「いた!ほんとに殴る?普通!」


だけど隼人がいなきゃ私はきっとダメになっていたと思うので、一応お礼は言っておく。そうしたら微妙な反応された。因みに雲雀さんを好きになったきっかけは、遅刻した私を見逃してくれたことだったなんてのは言わないでおこう。私は一目ぼれは信じないけど、こういう些細なことから恋は始まるものだ。私はほんのついさっき、彼にことごとく振られたため今となっては関係の無い話だけれど、吹っ切れたような気もする今となっては思い返すことも苦痛ではなく、むしろ懐かしい気もした。よって今こうやって、少々頼りなくもある幼馴染に話を聞いてもらってるわけなのである。恋なんて、終わってみれば本当に好きだったのかどうかなんてわからないものだ。


「でもね あたし、後悔はしてない」
「ならいいんじゃねーの?」
「うん、今度隼人が振られたらあたしが慰めてあげるね」
「・・・」
「何?」
は」
「うん」
「俺が何でお前なんかの話聞いてやってると思ってんだよ」
「・・幼馴染だから」
「はあ」
「何か腹立つんだけど」
「それはこっちの台詞だぜ」
「何言ってんの?」
「・・いや、今のは忘れろ」
「は?」
「後日出直す」


意味わかんない。そう呟いた私がその日の彼の言葉を理解するのは 一週間後。


(好きなんだよ!)(誰が?)(が)
信号がかわる