「は、好きなやついねーの?」「なんであなたにそんなこと言わなきゃいけないんですか」「いいだろそのくらい」「全然よくないです」「もしかして俺だったり」「調子に乗らないで」「冗談だって・・・」「ていうかあなた誰なんですか?」「ああ、俺はディーノ」「それさっき聞きました」「そういえばそうだったな」「・・何で私に付きまとうんですか」「お前に興味があるからだ」
「興味、って」 意味がわからない。彼(ディーノというらしい)は、私の近所に住んでいる綱吉の家から現れた。(え?どういう関係?)その明らかに日本人ではないその外見に始め驚きはしたものの、その後急に近づいてきたと思えば名前を聞かれ、年齢を聞かれ、初対面の相手に話すような事じゃない個人情報まで聞かれ、最終的には私に興味があるなどと言い出したものだからたまったものじゃない。綺麗な男の人だと思ったのもつかの間(ものの数分だろうか)最初の印象はことごとく覆されていく。 「あなた綱吉とどういう関係なんですか?」「ああ、弟みたいなもんだ」「弟?」「こそツナと知り合いか?」「クラスメイトです」「そうかクラスメイトか」「それがなにか?」「いや、恋人だったらどうしようかと思ってな」「・・・もし仮にそうだったとしても、あなたには関係ないです」「まあそう言うなよ」「あなたなんなんですかさっきから、初対面の相手に慣れ慣れしすぎませんか?」「そうか?悪いな。あっちではこれが普通だから」「あっち?」「イタリアさ」「・・・イタリアの方なんですね」「そうだ」「ここへは何しに来たんですか?」「まあ色々とな」「・・・すごく日本語がお上手ですけど」「ああ、そうか? 何度も来てると慣れるもんだ」 イタリアではこれが普通らしい。とかそんなの嘘に決まってるけど、こんな無防備な笑顔で言われれば怒る気もうせてしまう。お腹空いたなあと時計を見れば、かれこれ十数分は過ぎていた。そういえば私これからお昼食べようとしてたんだっけ。しかし、そんなところに今度は綱吉が顔を出した。まだ居たのかと言わんばかりに彼の名を口にするが、その後すぐに私の存在に気がつき驚愕の声をあげる。(相変わらずオーバーリアクションだな) 「え!??」「どうかしたかツナ?」「ディーノさんとがなんで・・」「ああ、今知り合ったんだ」「(今ここで!?)そ、そうなんですか」「この人綱吉のお兄さんなんだって?」「・・・ああ、まあ(ディーノさんどんな説明したんだよ!)」「ふーん」「(いや絶対信じてないな・・・)じゃ、じゃあおれお遣い頼まれてるから」「ああ、またな」「え、ちょ、綱吉」 この状況でよくも私をおいていけるな、と思ったが彼は一瞬でその場からいなくなった。ほんと逃げ足だけは速い。 「それよりも、さっきから気になってたんですが」「なんだ?」「この人たち誰ですか」「俺の部下だ」「部下?」 私が、さっきから他人にしてはやたら近い距離にたたずんでこちらを見ていた(いやサングラスかけてるから実際はどこ見てるかなんてわからないんだけど)おじさんたちを指して言えば、彼は部下だと言ってのける。名はロマーリオというらしい。ほかにも数人聞かされたが難しすぎて覚えられなかった。(これが普通だと思う) 「ていうか絶対こっち見てますよね」「そうだな」「そうだなって・・・」「俺を待ってるんだろうよ」「じゃあ早く行ってあげてください」「もう少ししたらなー」「もう結構待たせてる気がするんですけど」「そうだな、じゃああいつらには帰るよう言うか!」「なんでそうなるんですか・・」「長時間待たせるのは悪いだろ?」「あなたが帰ればいい話です」「それが出来ないから帰らせるんだ」「何で出来ないんですか?」「と話してる途中だろ」「私は大いにかまいません」「まあちょっと待ってろって!」「・・・・」 なんて強引な人なんだろう。部下?の人もさぞかし迷惑しているんだろうな、なんて思いつつ目をやれば、なんだか親しげに会話する二人(部下の人とディーノさん)がいた。今更言うのもなんだけど、部下なんて普通の人にはいないと思う。いったい何者なのあの人。結局、部下の人たちはロマーリオさん一人を残していなくなった。(こんな人ほおってあの人も帰ればいいのに)(ていうかこの人も連れて帰ってくれればいい) 「待たせたな!」「・・ディーノさんってお金持ちの息子さんか何かですか?」「ああ、あいつ等か」「まさかとは思いますが、社長さんではないですよね」「そんなもんだな」「・・・」「信用できないか?」「当たり前です!」「いつか話すさ」「いつかって、多分もう会う日はないと思いますが」「それはまずいな」「・・・何してるんですか」「携帯番号交換しようぜ」「え、嫌ですよ」「固い事言うなって!」「今日会った人にそんな事言われてもって、あ」 手から鞄が奪われた。(ちょ、なんて非常識な!)抗議の声を上げるが、彼には届いてない様子。鞄の横ポケットから覗いていた携帯を引っ張り出すと、慣れた手つきで番号を登録したようだ。その後携帯と鞄は私の元へ返されるが、どうやら私の携帯番号も自分のものに勝手に登録したらしい。 「消すなよ」「・・・約束は出来ません」「おいおい、それはなしな」「言われなくてもそんなことしませんよ」「なら良かった」 彼が微笑んだ時、後ろから部下の人(えーと、確かロマーリオさん)が彼に話しかける。その行動にも驚いたが、何よりも彼がディーノを呼ぶ呼び方に驚いた。 「ボス」「ロマーリオ、どうした?」「(え、ボスって?)」「悪い、どうやら用事が出来たようだ」「あ、はい」「残念だ」「そうですね(ボスって言うのは愛称か何か?)(それともイタリアではそう呼ぶのかしら)」 そうですねとは言ったものの、彼の方が見るからに落ち込んでいる。私はお昼を食べ損ねてお腹がすいていたしそろそろ帰りたかったから丁度良かった、なんて無情にも考えていた。携帯番号は交換したが、正直もう会うこともないだろうと思う。世の中そんなもんだ。 「じゃあまた」「ああ、また近々」「まだ日本にいるんですか?」「当分はな」「そうですか、早く行かないと部下の人が待ってますよ」「ああ」 じゃあな、って彼が最後に行って、このまま去っていくんだろうと思っていた私は、急に伸びてきた手に驚いて声を上げる。 「あの、ディーノさん・・!?」「これくらい許してくれてもいいだろ?」「・・・!」「また会いにくるから」「わ、わかりましたってば!」「今度はちゃんとに会いに来る」「(え、どう反応したらいいのこういう時)」 彼にされるがまま腕を引かれると、おでこに暖かい感触。それにさらに驚いて、思わず声を荒げた。しかしながら彼は相変わらずのんきな表情でそこにいる。 私は今の一部始終を、誰かに見られていないかと辺りを見回した。(まあ彼の部下のロマーリオさんには完璧に見られていたと思う)去り際にディーノが何か口にしたが、そんなの全然耳に入らない。そして思った。 (嗚呼 きっと私、彼の電話を待っちゃうんだろうな) 恋なんてそう、いつも唐突にやってくるものだ to gather your heart |