隼人はバカではない こんなこと私が言うのはなんか誉めてるみたいで嫌だけど、むしろ賢いほうに部類すると思う 帰国子女だし だけどそんなのどうでも良くなるくらい性格は悪かった 彼の数少ない長所といったら、すこしばかり良い顔と無駄に発達した頭だけだと言い切れる!(あれやっぱこれ褒めてるな)(いやそうでもない?) そんな事考えてたら、唐突に耳に痛みを感じて思わず叫んだ

「いった!痛い」
「ちょ、暴れんな!」
「だって痛い!」
「当たり前だろ」
「こんな痛いと思わなかった」

ていうか隼人が下手なんじゃないの?そうでしょ?そうとしか考えられない だって前にビアンキさんに聞いたとき、ピアスなんて針で刺されたような痛みよってすごいクールに言ってたもん そう言ったら、隼人はまたばかかって怒った そりゃああなたよりはばかですよ

「耳に穴開けるんだから痛いに決まってんだろ」
「早く言ってよ」
「お前が姉貴の言葉なんか信用するのが悪い」
「だってビアンキさん美人だし」
「関係ねーだろ」
「はいはいごめんなさい」
「・・・」

ごめんなさいって言ったら(まあ嫌味だけど)隼人は些か気に入らないといった風に私を見る でもなんだかんだ許してくれるあたり彼は私に甘いと思う 別にノロケてるわけじゃないよ

「で、止めんのか?」
「・・・やめない」
「じゃあじっとしてろ」
「うん」

なんだか、注射の針が刺さるのを待っている時間と似ていた 針がだんだん近づいてきてどきどきする、そんな感じ まあ実のところ身体の一部に穴を開けてそこに異物を通すのだから、怖いに決まってる それなのに耳やら鼻やら、信じられないことにヘソまたは舌にまで穴を開けようって人もいるものだから信じられない いや開けてる人はかっこいいけど、痛くなかったのかなあって考えちゃう ここまで言っておいてなんだけど、それよりも隼人がやたら近くにいることにどきどきしていた まあ仮にも思春期真っ只中の女の子ですからね

「痛っ!」
「・・開いたぞ」
「じんじんする・・」
「まあそんなもんだろ」

すぐ慣れる そう言って隼人は慣れた手つきで消毒を始めた 血は出てないみたいだけど、ちょっと沁みる もっと優しくしてよって抗議したら、十分優しくしてるだろーがって耳たぶを引っ張られた(痛いし!)

「終わった?」
「ああ」
「ありがと」
「・・・こまめに消毒しろよ」
「わかってる」

隼人が私から離れて、机に消毒液を置く 私が何でこんな急に耳に穴を開けようと思ったのかというと、隼人が誕生日にネックレスとペアのピアスくれたから そりゃあ彼氏がくれたものは身に付けたいと思うのが普通でしょ? ていうか隼人はわたしにピアスを開けてほしかったのかな?それとも私が穴開けてないこと知らなかったとか まあ今となってはどうでも良い話だけど!(だってもう開けちゃったし)

「じゃあ隼人のは私が」
「おま、殺す気か!」
「ピアス開けたくらいじゃ死なないと思うけど」
「いいから黙ってろ」

私が開けるといって手に取った市販のピアッサーを彼が奪い取る どうやら私に穴を開けさせるのがよほど嫌な模様(自分で言ってて悲しい) 諦めて見守ると、彼は場所の確認もせず一瞬で針を通して見せた さすが

「痛い痛い痛い」
「お前は痛くないだろ」
「そうだけど」

あっという間に彼の耳には、綺麗にピアスがはまっている (ていうかピアス超似合うな) ついでに言えば、彼と私のピアスはおそろい、ではない 多分恥ずかしかったんだろうとは思うけど、本当気が利かない男! 女はペアに弱いのよ そう言ってやれば、来年忘れてなかったらなって言った 私の聞き間違い出なければ確かにそう言った

「それって来年も一緒にいようって事?」
「別にそんな意味じゃ」
「うん言ってみただけー」
「まあ別れる気もねーけど」
「・・・それは予想してなかったかも」
「そうかよ」

ていうか(あ、これ私の口癖)隼人って結構私に惚れてるね! そう言うと「んなわけねーだろ」って頭はたかれた なんか今日痛いことばっかだ

「この前なんか山本にやきもち焼いたし」
「まだ覚えてんのかそんなこと・・!」
「最近じゃん」
「とっとと忘れろ」
「はいはいはい」

思い出しても笑ってしまう、ついこの前の出来事 山本と私が話してるのが気に食わなかったらしい彼は、あいつに近づくなと言う このとき初めて、ああ私って愛されてるなあって思った こんな事言うと絶対怒り出すから言わないけど、意外と彼は可愛いとことがある(例えば、以外にも幽霊信じてるとことか) まあ顔は怖いんだけど

「でも私だって嫌なときあるよ」
「何がだよ」
「隼人とハルちゃん仲良いし」
「・・仲良くなんかねーよ」
「知ってる」

じゃあ言うな、って結局怒られたけど気にしない

「あ、そうそう」
「なんだよこれ?」
「隼人って甘いもの嫌いだっけ?」
「・・・まあ嫌いじゃないけどよ」

おそらく、このあたりで気がつくはずだ 何しろ彼はこう見えて賢いから、気づかないはずない ラッピングされたプレゼントに甘いもの それが表す答えは限られている

「今年は早チョコが流行らしいよ」
「へー」
「まあそれにしても早すぎるんだけど」
「・・貰っとく」

ありがとうとは言わなかったものの、それだけで十分 頑張って作ったかいがあったってものだ(まあ彼が笑顔で感謝の言葉なんか口にするのは綱吉くらいだろうな)(ほんとうらやましい!)

「お返しはペアリングね」

冗談のつもりで言ったのに、まさか一ヵ月後 本当にペアリングを引っさげてやってきた彼の顔といったら、一生忘れない (しかも名前まで彫ってあるの) 私はその日、彼が一人どんな様子で指輪を買いに行ったのか想像するだけで笑い転げた 

隼人のこういうところ、ほんと 好き



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