「ひば、りきょう や・・」

ああ最悪、最悪の状況だ。
わたしは今目の前に立ち、明らかこちらを凝視している彼をできるだけ視界に入れまいと下を向いた。(なにこの罰ゲーム!)隣には、まゆりと他に2人友達がいたが、雲雀恭弥の顔を見ると瞬きの速さで逃げていく。(勿論まゆりは一番にいなくなった)(薄情者!)取り残されたわたしは、どうしようとりあえず挨拶したほうがいいのかなと混乱した頭で考えたが、口を開こうとしたところで、彼とは今何の関わりもないのだからここに留まる必要もないのではという結論に勝手に達した。

さん」

だけど良い具合に逃げようとしたところ手首をがっちり掴まれる。それに「ぎゃあ!」と可愛らしくもない(自分で言ってて悲しい)声をあげれば、雲雀恭弥は"不機嫌なんだけど"って書いた顔でわたしを見下ろした。(身長の差か・・!)周りには言うまでもなく誰1人いないし、正面玄関付近といっても先生1人近づこうとしない。(それは彼がここに留まっているからであるが)助けを求めることを諦めたわたしは、しょうがなく振り解こうと上げた手を下ろした。(こんな時に草壁さんがいてくれたらなあ(まあ役にはたたないだろうがいないよりましだ))


「あの・・」
「君本当に風紀委員辞めるの?」

何を言って良いかわからずとりあえず言葉を発そうと口を開くと、遮るように雲雀恭弥が質問する。その口調は、もしかして引止めに来たんじゃないかと思わせぶりな少し悲しそうなそれだった。(あの雲雀恭弥が?)まさか、と頭を横に振れば、彼は答えを口にしようとしないわたしに痺れを切らしたのか「答えなよ」って少しきつめの口調で握った手に力を込めた。ちょっとした腕の痛みに目を細めるが、彼がそんなこと気に留めるはずもない。

「辞めるって言ったらどうするんですか?」

だから彼を試すように聞き返すと、「質問に質問で返さないでくれる?」と更に嫌そうな顔をして、でもわたしは雲雀恭弥の答えが聞きたかったのでじっと黙っている。そうしたら少しして彼もわたしがもう何も言う気が無いとわかったのかため息をついた。「辞めるんだったらちゃんと届け出しときなよ」そうして彼が言ったのは、私が期待していた言葉と正反対の言葉だ。(なんだ、期待って)(馬鹿らしい)

「いらぬお気遣いどうも!」

「雲雀恭弥のばーか!」少しゆるんだ隙に、今までにないほど思いっきり手を振り腕を払う。そしてそれで少し調子に乗ったわたしは最後に素敵な捨て台詞を残して走り去ってやった。ずいぶん走って教室の前にたどり着いた頃、先程自分が彼に投げかけた言葉を思い出し本気で命の危機を感じ顔が真っ青になるが、最後くらいさすがのあの人でも見逃してくれるだろうということで落ち着く。(だけどもしもの時のために追っ手が来ていないか後ろを確認するのを忘れない)

そうして教室のドアを開けると、そこには 待ってましたと言わんばかりにまゆりが立っていた。


「どうだった?」
「一応聞くけど、何が?」
「委員長とはうまくいった?」

「いつもうるさいが急にいなくなったから寂しくなって引き止めに来たんでしょ?」鬼にも可愛いとこあるじゃない。そう言うまゆりに「そんなんじゃなかった」と笑顔で答えようとしたら案の定頬が引きつる。それにはまゆりも気が付いたのか、「これから二人の仲が一気に縮まって、」とか何とか1人自分の世界で繰り広げていたであろう妄想を切り上げ、俯いたわたしと視線をあわせるように覗きこんだ。

「どうした?」

心配そうなまゆりの目がわたしより悲しそうで涙が出そうになる。
ああそういえば、一昨日雲雀恭弥に「勝手にすれば」って言われた時もこんな気持ちになった。
まさか、それはないだろうと段々とはっきりしてきた頭で否定するも、余計核心に近づくばかりでそれから離れることはなかった。(ありえないけど、)

「まゆり、わたし、どうしよう」




( 彼にに恋しちゃったみたい )

恋に落ちた瞬間


070830