授業が始まると共に席に着く。勢いよく鞄を肩から振り下ろせば、隣に居たまゆりが「今日機嫌悪いね」と声をかけてきた。(第一声がそれかよ)多少不満を抱きつつもいつものことなので気には留めない。すると私の返事も待たず(これもいつものこと)「なにかあったの?」と聞いてきたので、少し嬉しそうな顔をつくり、「委員会辞めてきた」と微笑んだ。だけどそんなの彼女にはお見通しなのか、じっとわたしを見て「きもちわるい顔」と眉を寄せた。その言葉に多少傷ついたわたしは「まゆりさんひどい・・」と(とても)悲しそうに声をあげるもあっけなく無視される。(もう諦めたけど!)

そして数分何事もなかったように授業を受け、先程までの話を忘れた頃にまたまゆりが口を開いた。「何でやめたの?」


「雲雀恭弥に呆れ果てたから」
「(なにそれ)・・そう」

彼女はわたしの答えに納得していないように頷いた、だけどその後「でも」と付け足すように写していたノートから顔を上げ私と目を会わせる。

「なんだかんだいって楽しそうにしてたよね」
「・・どこが」

「どこがって、全部」そう言う彼女に「そうかなあ」と曖昧な返事を返せば、まゆりは大きくため息をついた。


その後何か言おうと口を開いたまゆりの声は、担任がわたし達のおしゃべりを注意する声で中断した。二人して黒板に視線を戻し、ノートをとる作業に戻る。先生の声は全くと言って良いほどわたしの頭には入ってこない。その日の授業中、ずっとわたしの中は奇妙なもやもやで埋め尽くされていた。そして先日の事件を思い出すたび、胸に何かしら違和感を感じるのだ。(なんなのこれ)その謎の正体に首をかしげるも答えは見つからないままで、それはいつの間にか私の思考を全て支配している。先生の話よりも、ずっと難しい問題だった。
「あんた最近おかしいわよ」と言うまゆりにこのことを打ち明ければ、「それはね、恋よ」とやけに眩しく感じる笑顔で言ってのけたのでわたしは目眩がした。

恋よ恋よと脳内でエコーされるまゆりの言葉を頭を振って取り消す。もやもやは更に大きくなって余計にわたしを苦しめていた。
だけどそれも気のせいだと自分に言い聞かせ、わたしはいつものようにプレイヤーを右ポケットから取り出し イヤホンを量耳に突っ込む。下校の時は大抵同じ曲を聞いていたが、最近はまっているアーティストの曲だって今はほとんど頭に入ってこない。






確かに雲雀恭弥のことは嫌いではないし、第一印象は良いとは言えなかったがその不敵な笑みに何度も引き込まれそうになったのは事実。しかし、だからといって彼にその、世に言う恋愛的感情を抱いているつもりは無かったと思っている。

否、思っていた。

この数日で、彼は意外と優しいこともわかったし(ただ、仕事のことになると鬼だけしおまけに乱暴だしわがままだし私のこと道具としか思ってないけど)、何かと見せる彼の真剣な表情には内心どきりとさせられている。雲雀恭弥は実は横顔美人だとか勝手に彼の仕事に打ちひしがれる横顔を見て思っていたり(でもそれが見つかって「何見てるの」と怒られる)、書類を完璧に片付けて帰宅しようとした時は必ず「お疲れ様」と優しく(ほんの少しだけど!)微笑んでくれたり、並森の風紀委員思ということで不良じみた他校生から喧嘩を売られそうになったときはいつの間にかやって来た彼に心底感謝した。思い返せば、嫌な事の方が少なかったのではないのだろうか。
ベッドに入り目を閉じようとすればなぜかそんなことばかり頭に浮かんで、なかなか寝付けない。これも全部あいつのせいだと罪を擦り付けるも、いつのまにかこのいらいらするようなもやもやするような、不安定な気持ちの正体を認めざるを得なくなっていた。




(そしていつの間にか目を閉じる)

恋に落ちた瞬間


07021