雲雀恭弥への気持ちを自覚してからはの私はまあ分かりやすかったと思う。
「はあ」
いつの間にやら授業も終わっていたらしい教室は、喧騒一つ無く静まり返っていた。私の口から出た盛大なため息だけが少し薄暗くなってきた教室に吸い込まれて消える。
「はあ」
もう一度大きな息を吐いた私は、薄暗くなってきた校庭に目を向けた。窓側に位置する私の席からは外の景色が良く見え、さらに教壇からは遠い 授業中ぼーっとするにはもってこいの良席である!私はこの席を大変気に入っている。付け足してまゆりが前の席だからっていうのもその理由の一つにあげておく。(そういえば今日は用事があるって言って最終の授業には出てなかったっけ)(でもきっとサボりだ)
友人の顔を思い浮かべつつ荷物をまとめ重い腰を上げると、椅子と床の擦れる嫌な音がした。



「もう下校の時間だよ」



聞き覚えのある声。
振り返ると教室の入り口には今日まで私を悩ませていた彼の姿があった。(このタイミングで!?!!!)私がどうこう考えるよりも先に、反射的に逃げようとする足は彼によって静止させられる。

「いたああああ!」
「悪いのは君だよ」
「え、でも、私じゃなくて、いや私なんですけど私の足が勝手に」
「なに?」
「(なんでもないです・・・)」

勢いよく踏ん付けられた(だけでなく何度か左右に捻られた)足の甲の痛みに声を上げると、想像していたよりずっと早く解放してもらえた。少し振りに正面から向き合う雲雀恭弥は、相変わらず黒い学ランを羽織ってその後ろには同じ色の武器を潜ませている。彼とこの学校がおかしいことにはもう触れないでおこう。
校舎には、いつの間にか学生の下校時刻を告げる音楽と、校内放送が響いていた。


「なんで逃げるの」
殺すよ。  彼は静かにそう付け足したが、少し耐性がついてきた私はこれくらいじゃへこたれない。

「逃げてなんか無いです」
「昨日の朝挨拶したけど無視した」
「気づきませんでした!」
「その前の朝も」
「き、気づきませんでした!」
「なんなの、噛み殺されたいの?」
「痛いのはちょっと!」

ぐっと近づいてソレを構えた彼に、いやです!!と頭を振る。さっき踏まれた足がまだ痛んだ。

安曇さん」
「は、」

はいって返事をしようとしたところで 頬にひんやりとした感触を感じる。 その冷たさに驚き、そしてそれが何なのか気がついて更にわけがわからない声が出た。
「ひっ、ひば?!!(ギャーー!)」
トンファーだった。おまけに後ずさったものだから、誰かが置きっぱなしにしていた荷物に躓いて見事に転倒する。(しぬ!!!)と思いきや腕に重みがかかって目を開けたら彼が私の腕をつかんでくれていた。いつも私を殴るその手で。
いっそ今ので気絶してしまいたかった。



安曇さん」
「はい」

すみません、

「なにに誤ってるの?」
「いろいろです」
騒いで勝手に転んだこととか、無視したこととか、あと委員会やめるって言ったこととか。 そう言ったら、彼は やっぱり無視したんだねって(そこかよ!)それだけ言った。彼の手はまだ私のそれを掴んだままだ。心なしか 私の腕を掴んだ彼の手の力が、少し強まった気がした。

「委員会やめないです」


「そう」 とだけ返した彼の顔は、ほんの少し嬉しそうだと勘違いさせるくらいに穏やかなものだ。






( なかなおり )

恋に落ちた瞬間


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